南ア製右ハンドルのBMW320iAが大人気。ドイツ車は“スカイライン化”しつつある

ここ二、三週間のうちに、右ハンドルのBMW320iAが、やたらと目につくようになるかも知れません。並行輸入業者が一〇社合同で五〇〇台のBMW320iA右ハンドル仕様車を仕入れて来たからです。正規ディーラーのBMWジャパンが販売する318iと、ほぼ同車格の320iAは、即日、五〇〇台が売り切れの人気でありました。

BMWジャパンが三九五万円で販売する318iと、さほど変わりのない価格の三九〇万円する320iAを、メインテナンス・サービスがしっかりしているわけでもない並行輸入業者から多くの若者が買い求めるのは、一種の謎《なぞ》です。

が、謎は、まだ他《ほか》にもあります、それは、この320iA右ハンドル仕様車が南アフリカ共和国で生産された代物《しろもの》であることです。日本の自動車メーカーのように、国連の言いつけをちゃあんと守って、現地での生産は現地資本でね、で、日本から持っていくのはエンジンの類《たぐい》のみ、だから利益はそこそこ、といった優等生ぶりを発揮してみたところで仕方ないじゃねえかよお、と勤勉なドイツ人は前々から考えてたのか、BMWもメルセデス・ベンツも、国連が経済制裁を決議する以前から南アに進出しているドイツ資本の工場を、今までと同じ状態にして利益を上げています。

ま、それはともかく、左側通行の国、南アフリカ共和国製の右ハンドルBMWを、日本の若者が競い合ってローンで買い求める。いやはや、なんとも平和な光景です。

四月には三〇歳になるというのに、未《いま》だにブランド少年やってる僕《ぼく》としては、どうせなら、西ドイツ製の左ハンドル車を正規ディーラーから購入すればいいのにと考えてしまいます。けれども、そんなことはあまり関係ないようなのです。前回、述べた、日本で左ハンドル車に乗ることの実質的効用など考えたこともないようなジャンルの少年たちが、BMWのユーザーになろうとしているのです。

ソアラは、やたらと値段が高いのに、なぜか老若《ろうにやく》男女が全国津々浦々で乗っていて、おまけに、すぐにモデル・チェンジもするからなあ、と考える、従来、新車発表会の日には必ず国産車のディーラーへ足を運んでいたような少年たちが、BMWへ目を向けるようになった。こういうわけなのです。

ソアラを買うのなら、BMWを買った方が、今、付き合っている東京スクール・オブ・ビジネスのガールフレンドとは、「キャッ、ステキ」ってなことで安泰、安泰だろうし、それに、たとえば、男同士二人でマハラジャへ出かけた時に、BMWのロゴマーク入りキーホルダーをテーブルの上にチョンと置いておけば、目白女子短大や戸板女子短大のレイヤード少女はもちろんのこと、上手《うま》くいけば、川村女子短大のワンレングス少女だって、ヒョコヒョコとくっついてくるかも知れない。少年たちの夢はふくらみます。だから、ディーラー車より五万円安い、右ハンドルのBMWを俺《おれ》も一台。これであります。

その昔、BMWのイメージを、しばしば、僕は次のように述べていました。「お父さんは、地方にある国立の医学部を卒業した後、勤務医を経て開業。七年前に製造のスウェーデンのボルボに乗っている。けれども、息子の方は、二浪して私立の聖マリアンナ医科大や埼玉医科大に四千万円の効果が実って、目出たく御入学。通学用にとBMWの3シリーズ(318i等)を買ってもらう」。『ポパイ』あたりに書くと、結構、受けた発言でありました。

けれども、今や、そのBMWは、聖マリアンナ医科大の少年とは、その親の経済状況や社会的地位が比べものにならないくらいにかけ離れた少年たちも乗り回すようになってきているのです。ソアラ、スカイライン化しつつあるのです。

日本での売り上げが急増しているBMWの悩みは、実はそこにあります。“6シリーズ(635CSi等)、7シリーズ(745i等)といった一千万円前後の車を行動派のエグゼクティヴたちよ、ぜひ、社用車として”みたいな内容の広告をクラス・マガジンに出稿しているのは、そのためです。

技術的にもメルセデスやアウディに大きく遅れをとり、また、デザイン的にも古いとされて、本国、西ドイツでは売り上げシェアをガクン、ガクンと落としているBMWの現状をも合わせて考えると、あせりはなおさらです。

こうした状況が現れてくる前から、BMWが3シリーズ車だけのイメージになっていくことを懸念《けねん》して、「3シリーズ車は、若者たちのアイドル、西武セゾン・グループの西武自動車にディーリングを移す。BMWジャパンは、5シリーズ(518i等)以上のみを販売する。そうして、今まで、西武自動車が扱っていたサーブ、シトロエン、プジョーは、そのイメージをアップするために、東急と阪急が合同でディーラーを新設する。これが、それぞれの将来にとっての幸せである」と述べてもいた僕としては、「ほら、ごらんなさい」という感じです。

けれども、似たようなことはメルセデス・ベンツについても言えるのです。昨年、マハラジャのVIPルームでくつろぐ、ヤの字のお兄さんたちは、そのほとんどが、窓にフィルムを貼《は》って中を見えにくくした黒塗りのメルセデスです。あるいは、功成り名遂げた演歌歌手のみなさんも、これまた、昨今は自動車電話付きのメルセデスです。

こうしたドイツ車の状況を横目で見ながら、乗り心地が良くて運転がしやすい最近のアメリカ車を、真剣、購入しようかとも考えている僕としては、オピニオン・リーダーならぬ、日本における消費のフレーバー・リーダー、テイスト・リーダーたちにGMあたりが無料でビュイックやキャデラックを与えたら、少しはイメージが変わるのでは、とも思います。

が、BMWやメルセデス・ベンツの裾野《すその》が、いくら広がったとはいっても、昔のムスタング人気のように盛り上がることはないのと同様、ドッヂボールの円がひとつひとつ小さくなっている今という時代ではあまり効果を期待出来ないのかもしれません。

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