どうしてわざわざ輸入車に乗り、どうしてアメックスのカードを持ちたがる?

どうして、輸入車に乗る人たちがいるのでしょう。「日本車で、十分ではないか。いや、というよりも、むしろ、日本車の方が故障もしないし、右ハンドルだし、エアコンの類《たぐい》だって、ちゃあんとしてるし、それに、なにより、価格が安い」。

まあ、このあたりが、一般的日本人の“コモンセンス”でありましょう。それぞれ、「いや、そんなことはないよ」と反論しようと思えば出来ないことはありません。が、それは、ひとまず横に置いておいて、こうした“コモンセンス”を述べる人たちには、僕は次のように答えます。

「アメックスのクレジット・カードを使う人たちと同じところがあるのですよ、心理としてはね」

アメリカン・エキスプレスのクレジット・カードは、手数料が高いのです。加盟店は、売り上げの六%もをアメックスに対して支払うことになっています(もちろん、実際の金銭の授受としては、六%分、差し引かれた金額が、アメックスから加盟店に対して支払われることになるわけですが)。

他のクレジット・カードは、VISAもJCBもダイナース・クラブも、その手数料は三%です。更に、カード会社から加盟店に対する決済が、最短一週間で行われることもあるVISAに比べると、手数料は高いのに決済は早いわけでもないのがアメックスです。

けれども、不思議なことには、アメックスのカードを使う人たちが、日本には、結構、います。いや、もちろん、カードを利用する人たちにとっては、加盟店の手数料が高かろうと低かろうと、そんなこと、一向に関係ないことではありましょう。が、カード保有者にとっても、少なくとも、いくつかの点では、決して得するカードではないのです、アメックスは。

まず、ゴールド・カードの場合、年会費が一万五千円です。その他のカードは、せいぜいが、千円とか二千円でしょう。カードの保険料のみというところだってあります。会員になるのが難しいダイナースでさえ、六千円です。

そうして、本来、アメックスのゴールド・カードを持つ人たちは、一カ月の支払額を制限されることなく利用出来るメリットがあるからこそ、会員になったはずです。ダイナースと同じメリットです。というよりも、むしろ、それが、この二つのカードにプレスティージを感じさせることとなっているのです。

けれども、この点についても、最近のアメックスは、失格です。ご存知《ぞんじ》のように、どこのカード会社も、カード保有者が加盟店で高額の買い物をする際、加盟店がカード会社に電話をして来て、承認番号を取ることを義務づけています。盗難・紛失カードのリストが配られる前に悪用されるのを防ぐためです。

通常、五万円、もしくは一〇万円が、そのラインです。ダイナースの場合、二〇万円です。アメックスは、では、幾らでしょう。ジャーン、二万五千円が、線引き金額です。「盗難カードの悪用が、昨今、多い」「では、承認番号を必要とする金額を引き下げましょう」と、なぜに日本人がアメックスのゴールド・カードを持ちたがるのかという、その理由を全然、理解していないアメリカ人のヘッドたちが、勝手に決めちゃったのです。今年からの変更です。

短い時間の間隔で、続けて買い物をした場合には、盗難カードの恐れありとして、チェックを厳しくすることも決めました。そのため、たとえば、ひとつのファッション・ビルの中のAブチックで四万円の買い物をして、五分後に、Bブチックで三万円の買い物をした場合、承認番号を取る際に、カード保有者を電話口に呼んで、生年月日、住所等を聞くような具合になりました。いやはや、なんともです。

「なのにね、相変わらず、アメックスを使いたがる日本人が多いのですよ。もちろん、そりゃ、海外へ出た時には、トラベル部門が充実してますから、有り難《がた》いと思いますけれど、でも、国内でだったら、どこのカードを使ってもいいわけでしょ。それに、アメックスのゴールドを持ってる人なら、多分、他《ほか》のカードだって、既に持っているはずですし。けれども、アメックスをテーブルの上に差し出しちゃう」

こう言うと、“コモン”たちは、大きくうなずきます。

「カード保有者だけじゃなくてね。実は、ブチックやレストランの側も、アメックスを出すと、『うーん、このお客は、信用出来る』なんて思っちゃうところがあるんですよ。手数料が高いから、実は、決して、いいお客じゃないのにね」

「なるほど、国産車でもいいのに、わざわざ輸入車を買う人たち、そうして、それを見る周りの目に似ていますな」

ますます、大きくうなずきます。以前から僕《ぼく》が説いている“物離れの物価値”のひとつでしょう。そうして、逆に、輸入車、それも、五〇〇万円以上のセダン・カーを買えるだけの余裕があるのに、「いやあ、私は、輸入車に乗るほどの身分じゃ、ありませんよ」と、セドリックやクラウンに乗る人たちの選択も、これはこれで、人から反感を買わないための車選びという点で、“物離れの物価値”なのです。

一一月の初旬、晴海《はるみ》で開かれた第二六回東京モーターショーの外国車館に集まるお客たちを見ていて、そのことを再確認しました。輸入車のディーラーたちと親しげに話している顧客の表情は、レストランでアメックスのカードをテーブルの上に出したお客の表情と似ています。それを周りから見ている人たちの表情は、レストランの経営者、もしくは、セドリックやクラウンに乗る人たちです。

もっとも、どのカードでもお客にとっては変わりないクレジットの場合とは違って、輸入車、特に、ドイツ、アメリカ車の場合、事故の際の危険回避という点で日本車とは明らかに異なるところがあるのですが、このことについては、以前、『トーキョー大沈入』の中で述べたので、省きます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です