“ナショナル・フラッグの威信”でコチコチのJALに創価学会系の女性クルーがなぜか増えてる

人間、膝《ひざ》の部分に遊びを持たせずにピンと足を張っていると、かえって、ちょっとしたことで転げてしまいがちです。小学校の全校朝礼なんぞの時に、直立不動の学級委員の膝の後ろ側をチョコン、悪戯坊主《いたずらぼうず》が押したところがゴロンとなってしまったことは、誰《だれ》しも、記憶にあるのではありますまいか。

一方、悪戯坊主というのは、いつでも膝の部分に遊びを持たせて立っているものですから、チョコンと押しても、ユラユラするだけで転げることはない。これも、誰もが認めるところです。前章で触れた、おおらかさはあるのに、おおらかなポカは生まれにくいアリタリアを始めとする欧米の航空会社は、さしずめ後者でしょう。

では、日本航空は、どちらでありましょう? 1月6日付の朝刊各紙には、「20、878人の新しい決意」と題した日本航空の全面広告が載っていました。年末に代表取締役社長となった山地進氏の写真入り意見広告であります。読み進むうちに、僕《ぼく》は膝をピンと伸ばした優等生としての日本航空を感じました。

「もう一度、日本航空への信頼を取り戻《もど》すにはどうすべきか。安心して日本航空をご利用いただくには、何をなすべきか。日本航空二〇、八七八人ひとりひとりがそのことを考え、一丸となって努力を続けてまいりました」と始まるこの意見広告は、「安全運航対策について」という最初の項で、「自主的かつ徹底的な」点検整備を行ったことを報告、「この整備体制を堅持して、『信頼の翼・日本航空』の評価を再びいただけるよう全力を傾ける決意です」と述べます。

そうして、続いての「二〇、八七八人の思いはひとつ」と題する項には、「情熱と持てる力のすべてを注いでまいります」「その結晶が一便一便のフライトとなり、皆さまの旅を力強く支えます」とあります。膝をピンと伸ばして、直立不動です。おおらかさなんてありません。が、もっともこれは、別段、日本航空だけを責めれば、それで済むことでもないでしょう。

ご存知《ぞんじ》のように、敵が攻めて来たら、“神風信じて、竹槍《たけやり》持って”の反応パターンが、悲しいかな日本なのですもの。言ってみれば、膝をピンと伸ばして、直立不動、応用編その㈵です。そこで、理性的意見を述べる人など、非国民として断罪されてしまいます。そうして、負けてしまえば今度は“一億総懺悔《ざんげ》”。これまた、膝をピンと伸ばして直立不動、応用編その㈼です。もちろん、こうした国民性は今でも変わりません。おおらかな気分で、「ま、色々とありましたけれど、一応、今後は頑張《がんば》りますから、ひとつよろしく、ケセラセラ」みたいな態度は、とてもじゃないけれど許されないのです。

ですから、三番目の「完全民営化に向けて」も、「新体制のもと、新たなスタートを切」った、首を垂れる“新生”日本航空の決意表明であります。「民営化、および国際線・国内線の複数社運営は、まさに時代の求めるところ」「皆さまの空の旅をより便利に、より快適にしていくものであり、またぜひ、そうしていかねばなりません」。“民活”と称して、森ビル、東京興産、大京観光といったノン・エスタブリッシュメント・カンパニーに国有地払い下げの功徳《くどく》を施す宰相に“新体制”が支えられているせいもあってか、なるほど、謙虚です。

そう思いながら次面へ目線を移そうとすると、「日本を代表するエアラインとして、再び、日本航空は、『信頼の翼』への歩みを一歩一歩、着実に進めてまいります」との一文が最後に載っているのに気が付きました。「ウーム」です。直立不動で首を垂れる優等生は、けれども、まさに膝をピンと伸ばしたままだったのです。

いや、もちろん、膝をピンと伸ばしていなくては直立不動と呼べません。ここで言っているのは、違うニュアンスです。首を垂れてはいるものの、それは、まさに首から上だけが恭順の意を表しているのであって、首より下の直立不動は、むしろ、旧態依然とした硬直以外の何物でもない。こう表現した方が、わかりやすいかも知れません。

早い話が、「手前どもの民営化と、国際線・国内線の複数社運航は、世の声、人の声でござりまする」と言いながら、「だが、ナショナル・フラッグ・キャリアとしての威信は、守り通さねば」と結んでいるのです。つまらぬ色気を捨て切れない日本航空という組織は、ですから、依然として自分でお金を払ってるわけではない、精神的ブランド価値の高い乗客には過剰サービスを、そうして、実際に自分でお金を払って搭乗《とうじよう》した乗客には慇懃《いんぎん》無礼な態度をとることになってしまうのです。

「単なる一運輸会社に戻りなさい」と去年の夏、“愛を込めて”“空からの贈り物”をプレゼントした僕としては、いやはや、なんともです。けれども、心優しい面も持つ僕は、「こうした組織の中で、実は、二〇、八七八人の社員も、そのひとりひとりは、秘《ひそ》かに心を痛めているのかも知れない」と、ついつい、気づかってあげてしまうのです。

救ってくれるのは誰でしょう? 残念ながら既存の労働組合ではなさそうです。「長時間フライト反対」と叫んでいた日共系の客乗組合も、特別路線手当としてニューヨーク・フライトに五万円が出ることになるや否《いな》や、「ハーイ」とお返事しちゃうのですから。ソ連や中国の高級官吏といい勝負です。

「ウーム」、悩んでいると、なんと、このところ、ギスギスした社内の空気に耐え切れずに、創価学会の信者になる女性キャビン・クルーが増えているという確かな情報が入ってきました。池田大作先生の教えに一筋の光を感じた彼女たちは、そのせいか、常にニコニコと別《わ》け隔てなく乗客にサービスをするらしく、その表情で入信したことが容易にわかるのだとか。

もちろん、「信頼の翼・日本航空」のためなら、不平不満など口には出さぬタイプとなるみたいです。

いやあ、思わぬところから、処方箋《しよほうせん》が出て来ました。創価学会系の組合を会社側主導の下で結成させるのです。あるいは、間もなく始まるであろう再開キャンペーンに薬師丸ひろ子を起用して、彼女の父が職員を務める霊友会系の組合を結成させるのもどうでしょう。労使問題の達人、伊藤淳二《じゆんじ》日航副会長への提言です。

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